診療内容について
個人の遺伝情報を診療に活用できる遺伝子診療の時代になりました
医学の進歩により多くの病気と遺伝の関係がわかってきました。遺伝子解析技術 の進歩もあり、個人のゲノム情報を調べて、その結果をもとに、より効果的に各種 疾患の診断、治療、予防をおこなうゲノム医療が始まっています。
遺伝外来(遺伝カウンセリング外来)は病気と遺伝の関係をわかりやすく説明し、 必要に応じて遺伝子診断を実施して、皆さんの遺伝に関する疑問・悩みに対応する と同時に遺伝情報をご本人と血縁の方の診療に役立てる新しい形の医療です。
個人の遺伝情報を扱うので、当事者の意思、お気持ち、プライバシーを十分に尊重 することが大切であり、そのために遺伝カウンセリングが必要となります。
●個人の遺伝情報をがん検診にも活かすことができます
一つの遺伝子の変化ががんの発症の原因となる遺伝性のがんは乳がん、卵巣がん、 大腸がんでは比較的多く、全体の 5~15%と考えられ、
1.若い年齢で発症する
2.複数の臓器にがんができる
3.家系内にがんの方が多い
等の特徴があります。遺伝性のがんは通常のがん検診だけでは早期発見が難しい 場合があり、遺伝子診断を活用することにより効率的ながん検診を受けることが 可能となります。
多くの場合、遺伝子の変化は、親から子へと、性別に関係なく 2 分の 1 の確率で 受け継がれますので、遺伝性かどうかを判断することは、ご本人だけでなく血縁者 の健康管理にも役立ちます。ご自分が遺伝性のがんに該当するかどうか不安な方、 遺伝子診断を希望される方は、是非、遺伝カウンセリング外来をご活用ください。 遺伝情報の活用を通して自分らしい選択や行動ができるよう、専門家がお手伝い させていただきます。
●いわゆる遺伝子検査ビジネスの利用は慎重に
分子遺伝学とその解析技術の進歩の結果、従来漠然とがん家系と表現されていた ことの実態の一部がわかるようになりましたが、これは一つの遺伝子の変化で説 明できるタイプのがんに限られた話です。その他の多くのがんでは感染症、喫煙、 食生活などの環境要因が重要であり、遺伝要因もまだ一部しか判っていません。 2 型糖尿病、高血圧などの生活習慣病の場合も同様です。
世間で喧伝されているような多くの疾患に関連した遺伝子を一気に調べてがんや 生活習慣病の発症リスクを推定することはまだ研究段階といえます。十分な理解 なしに環境要因を無視して限られた遺伝要因だけで発症リスクを推定することに はむしろマイナス面もあると思われます。実施する場合は十分な証拠がある検査 項目に限り、医療機関で遺伝医療の枠組みの中で実施する必要があります。
遺伝カウンセリングの活用
●遺伝性乳がん・卵巣がん症候群
乳がんの中には、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれる、遺伝要 因がとても強いものがあることが分かっています。米国の某有名女優の報道をき っかけに我が国でも知られるようになりました。研究の結果、BRCA1 遺伝子と BRCA2 遺伝子と呼ばれる2つの遺伝子のどちらかに変異(変化)があると、乳が んだけではなく、卵巣がんなどにもなりやすいことが分かっています。 また、これら以外にも乳がんや卵巣がんの発症に関与する遺伝子が複数知られています。
若い年齢で乳がんになった、両乳房に乳がんができた、本人や家族に乳がんと診断 された方が3名以上いる場合、卵巣がんの方が 1 名でもいる場合などは遺伝性乳 がん・卵巣がん症候群のリスクが高いと言われており、BRCA1/2 などの遺伝子に 変異があるかどうかは遺伝子/遺伝学的検査で調べることができます。変化のある 遺伝子は、親から子へと、性別に関係なく 2 分の 1 の確率で受け継がれますので、 遺伝性かどうかを判断することは、ご血縁者の健康管理に役立つこともあります。
●リンチ症候群
大腸癌/子宮体癌 などの中には、遺伝性腫瘍症候群の一つ『リンチ症候群』と呼ばれる、遺伝要因が発がんに強く関与しているものがあることが知られています。
研究の結果、DNA の修復を行うミスマッチ修復遺伝子と呼ばれる遺伝子群に、特定の変異(変化)があると、大腸がんや子宮体がん、またその他に、胃がん、卵巣 がん、小腸がん、胆道系・膵臓がん、脳腫瘍、皮膚がん(これらはリンチ関連がん と呼ばれます)などの発症率が高くなることがわかっています。
若い年齢で大腸がんや子宮体がんに罹られられた場合や、2つ以上のリンチ関連 がんに罹ったことがある場合、または、本人や家族にリンチ関連がんと診断された 方が複数いる場合などは、リンチ症候群の可能性を考える必要があると言われて います。
近年、リンチ症候群の解明が進み、予防法、検診法、また治療法に於いても、新し い知見が得られています。 例えば治療法においては、免疫チェックポイント阻害 剤の有効性が高いことが報告されており、通常のがんと異なる対応が望まれております。また予防対策・予防薬の研究も進んでいます。
ミスマッチ修復遺伝子に変異があるかどうかは遺伝子/遺伝学的検査で調べるこ とができます。変化のある遺伝子は、親から子へと、性別に関係なく 2 分の 1 の確率で受け継がれますので、遺伝性かどうかを判断することは、ご自身だけではな く、ご血縁者の健康管理に役立つこともあります。
治療薬選択のための遺伝子/遺伝学的検査と遺伝カウンセリング
がんゲノム医療の進歩にともない、治療薬選択に際して、遺伝学的検査が活用され るようになってきました。これら治療法選択のために行う遺伝子/遺伝学的検査に より上記のような遺伝性腫瘍症候群に関する情報が得られることがあります。
当施設では、多くの医療機関と連携して、治療法選択のために行った遺伝子/遺伝 学的検査を通して遺伝性腫瘍症候群の可能性を指摘された方または、遺伝性腫瘍 症候群と診断された方への遺伝カウンセリング及び、ご血縁者に対するカウンセリングも提供しております。 遺伝カウンセリングにおいては、状況をお聞きしながら、遺伝性腫瘍症候群の診断や、今後の方針に関しての相談を行ってまいります。
治療薬選択のための遺伝子関連検査で、遺伝カウンセリングの対象となる方は、主に以下の通りです。
— 乳がんや卵巣がんに対する、オラパリブ(商品名:リムパーザ)の適応を判断するための BRCA1/2 検査をお受けになり、遺伝子変異陽性と判定された方とご血縁者
— 固形がんに対する、ペンブロリズマブ(商品名 キイトルーダ)の適応判断の ための MSI 検査で、陽性(MSI-high)の結果であった方とご血縁者
— がん治療薬選択のための、遺伝子パネル検査をお受けになり、検査の結果で遺 伝性腫瘍症候群の可能性があると指摘された方とご血縁者
遺伝性腫瘍症候群と診断された方へ
サーベイランス・適切な健診方法のご相談及びご提供を行っております。
— 遺伝性乳がん卵巣がんと診断のついた方へ 当施設乳腺外科・婦人科と連 携しながら、 乳房造影 MRI 検査を含むサーベイランスの提供を行っております。
— リンチ症候群と診断のついた方へ
当施設では、大腸内視鏡検査、上部内視鏡検査、腹部超音波検査、尿路系 検査、子宮体内膜組織診や経膣超音波を含む婦人科スクリーニング、小腸カプセル内視鏡など、リンチ症候群のサーベイランスとして推奨されてい る各種検査を提供しております。カウンセリングにて必要な項目をご相 談し、健診プログラムの立案と、検査の提供を行なっております。
検査項目はご相談の上お決めいたします。
その他
家族性膵癌や遺伝性びまん性胃がんなどの遺伝性腫瘍症候群の遺伝カウンセ リングも行なっております。 遺伝カウンセリング外来は病気と遺伝に関する正しい最新の情報を提供し、ご 自身の考えを尊重しながら、ご本人とご家族の健康管理に役立てることを一緒 に考える外来です。お気軽にご相談ください。

- カウンセリング風景

- 家系図/血縁の方の病気に関して詳しくお聞きして家系図を描くことは、その病気が遺伝性かどうかを判断するのに重要です

- 病気における遺伝要因と環境要因/多くの病気には遺伝要因と環境要因(喫煙、肥満など)の両方が関与します 「がん」の5%位は遺伝要因だけで発病すると考えられます遺伝的リスクを正しく理解すれば、本人やご家族のがん検診に役立てることができます


