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vol.89 歴史に彩られた町を訪れて

タイトル:理事長室へようこそ

 白い砂を踏みしめて進むとサクサクと乾いた音がした。細かく砕けた貝殻がその白さを際立たせていた。すぐ近くには小さな伝馬船が波打ち際から10メートルくらいのところにあった。その砂浜の先には佐々木小次郎と宮本武蔵の決闘の銅像があった。小次郎の身体は低く沈み、右側方に構えられた垂直に天に向かう長剣は武蔵を狙っていた。これが「ツバメ返し」なのか。武蔵の身体は一瞬宙を舞うように長剣より長い木刀は真上から小次郎の脳天を目掛けて振り下ろされようとしていた。日輪を取り合って白い砂浜で激しく鍔迫り合いをする小次郎と武蔵、若いとき映画で見た巌流島の決闘の1シーンを思い出した。関門海峡に浮かぶ小さな島は何事もなかったように多くの旅人を迎え入れてくれていた。
 学会参加のため下関を訪れた。大学医学部に奉職していた8年前までは学会会場とホテルの往復で、訪れた都市の歴史や文化・芸術等に触れることなく、すぐとんぼ返りの連続であった。専門の研究についてはそれなりの成果は得られたものと思いたいが、何回も訪れているところでも歴史や文化について余り正確に知らないということに気づいて愕然とした。気づくのが遅すぎたきらいはあるが、気づかないよりは良いかと思うことにした。
 下関には日本の歴史に大きな転換を与える出来事が地層のように積み重ねられている。源平最後の対決となった「壇ノ浦の合戦」で、わずか8歳で入水した安徳天皇を祭った赤間神宮など、源平最後の合戦の多くの史跡がある。平家という貴族社会から源氏という武家社会へ日本の歴史を塗り替えたこの地は、約700年という時を超えて高杉晋作による功山寺挙兵をきっかけとする明治維新の源流を胎動させ、日本を近代国家に転換させる歴史的端緒となった。また、日清戦争の講和を記念した日清講和記念館があり、隣接して条約が締結された会場である「春帆楼」も現役で残っている。数え上げたらきりがないが、昔から栄えた唐戸市場には関門海峡で採れた新鮮な魚介類が豊富だった。九州と本州を700メートルほどで繋ぐ海峡に接するこの歴史に彩られた町は、海流のように激しく方向を変えながら日本の歴史の転換のために無限のエネルギーを蓄えているようだった。

平成26年12月26日
公益財団法人ちば県民保健予防財団
理事長 藤澤武彦

バックナンバー

vol.89
歴史に彩られた町を訪れて (H26.12.26)
Vol.88
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発酵と腐敗 (H25.3.29)
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グローバリゼーションとアイデンティティ (H20.5.27)
Vol.5
忘れえぬ講義 (H20.5.13)
Vol.4
緊張と過緊張の狭間 (H20.4.22)
Vol.3
医療危機 (H20.4.15)
Vol.2 
グローナカル (H20.4.8)
Vol.1
昨日、今日、明日 (H20.4.1)