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Vol.83 発酵と腐敗

タイトル:理事長室へようこそ

 女子柔道オリンピック強化指定15選手による日本柔道連盟の監督、コーチの体罰とパワーハラスメントに関するJOCへの提訴の報道をみて、「発酵と腐敗」という言葉が直感的に心に浮かんだ。永く日本文化と日本人の香り高い精神を醸成してきた柔道精神が何時の間にか腐敗していたことが露呈した。昔酒造りの杜氏は腐敗菌が一部でも増殖して酒の質が落ちると、本当の話かどうか分からないが、自ら命を絶ったということを聞いたことがある。酒蔵の中では発酵菌だけでなく腐敗菌も同時に同一空間に存在し、細心の注意を払っていても一部でも気が弛んだり、また軽微でも自然条件の変化を見過ごせば腐敗が進んでしまうという酒造りの難しさの例えかもしれない。人と人との関係も同じで、細心の注意を常に払って自己規制していかないと何時の間にか歪んだものになってしまうということなのだろう。 人は人間関係の中から殆どのものを学び、お互いに高めあって生きている。日々自己練磨し、弛まず成長していかなければならない。選手は当然だが、コーチ、監督も同じである。そこに人と人との強い絆と信頼関係が醸成されていく。前監督から「一方的な信頼関係」という言葉があったが、人と人との双方向で平等な立場でなければ信頼関係などとはいえない。信頼関係の喪失は柔道界のみではないようだ。勝利にこだわる余り、高校生のスポーツ活動においても体罰がまかり通り、肯定する風潮さえある。目を覆いたくなるような映像が度々メディアで報道されている。管理する側にはその事実が伝えられても事態の深刻さを認識できなければ何時までたっても事態は解決できない。 スポーツは勝利を目指しても、勝利が最終目標ではない。究極の目的は自己練磨によって人格を磨き、社会の発展に貢献しつつ、充実した人生を形成するためでなければならない。どんな困難でも乗り切っていけるような知恵と体力を身につけることも大きな目的であろう。柔道をするのはあくまで選手であり、選手を信頼し、コーチや監督、連盟は支援するものであるはずなのに、それが逆転していることに根本的な誤りがある。信頼関係の上にある厳しい稽古と上下関係だけで行われる信頼関係のない稽古は発酵と腐敗のように一見同じように見えても、全く違った結果となってしまう。柔道界の混乱は、日本のスポーツ界に内在している理にかなわない精神論的な問題の1つともいえるのではないか。

平成25年3月29日
公益財団法人ちば県民保健予防財団
理事長 藤澤武彦

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