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Vol.82 がんの時間学とがん検診

タイトル:理事長室へようこそ

 「がんで泣くより笑って予防」。2012年度日本対がん協会の標語だ。がんは怖い病気だから年1回のがん検診が必要であることは多くの人が知っている。がん対策推進基本計画ではがん検診受診率50%を目指しているが、5年経過しても一向に改善していない。何故日本ではがん検診受診率は20%台と低いのだろうか。国民皆保険制度が行き渡り、何時でも何所でも高度な医療が受けられるため、「症状が出てから病院にいけばいい」と考えている国民も少なくない。また、今まで10年も毎年がん検診を受けてきたが、毎年異常なしといわれてきたので、毎年受ける必要はないのではないかと考える国民もいる。しかし、がんが日本における死亡原因の第1位であることを考えれば、がんという病気を正しく理解していないことになる。 がん検診が年に1回必要であることはがんの時間学からも説明できる。がんの時間学とは、がんの発生から死までを時間の尺度によりがんの性質を考える分野である。1個の正常細胞がタバコ煙などの中に含まれる発がん性物質等で遺伝子に異常が生じがん細胞に転換し、分裂を繰り返しながら増殖転移し、がんの病巣が10センチくらいの大きさ、がん細胞数1兆個に平均して発生から20年経過し、死に至るとされている。がんの大きさと発生からの経過時間を見ると1ミリ(細胞数100万個)になるまでに10年が経過し、死までの実に半分の時間が経過していることになる。この大きさでは発生する部位によっては最新の機器で発見できないこともないが殆どは不可能である。臨床的に発見可能となる1センチ(細胞数10億個)になるには15年、死までの4分の3が経過していることになる。そして手術して治癒する可能性がある2~3センチには2年ほどで増殖する。従って、1センチ前後の早期で発見できる可能性は1~2年、年1回の検診では2回ないし3回のチャンスしかないことになる。これが毎年1回はがん検診を受けることが必要である理由である。 しかし、「がん検診を毎年受けていたのに見つかったときには末期だった。だから、がん検診なんて意味がないんじゃないか」ということを聞くこともある。この可能性を完全に否定はできない。がんの1割から2割は増殖速度や転移能がたかく、検診では早期に発見することができないものも含まれていることは事実である。しかし、考え方を変えれば、8~9割の確率で検診により早期がんを発見できる可能性があるのであるならば、年1回がん検診を受けることが必要ではないか。がんを克服するには年1回がん検診を受けることが大切である。がん検診の効果と限界を正しく国民が理解し、がん検診受診率を高めていくことが日本のがん対策における喫緊の課題である。

平成25年1月31日
公益財団法人ちば県民保健予防財団
理事長 藤澤武彦

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